心についての研究を、既存の分野別に捉われず推し進める学術団体です。

機関誌『心の諸問題論叢』(Mind/Soul Interfaces)を発行します。

 

 

 

 心の諸問題考究会 基本要領 

 学問は、公開性と相互受容と相互批判により育まれ、発展する。しかし、心の諸問題にかかわる今日の研究発表のあり方を見渡すと、これらの条件が十分に整っているとは言えないであろう。

 公開性については、学会誌の審査基準は明確でなく、公募さえ行われない場合がある。査読をめぐる、投稿者からの問い合わせや反論にきちんとした答えの返らない場合も多い。これが論文の様式や研究方法に偏りを生じさせている。諸学会は狭い専門に閉じこもりがちで、異なった発想の互いに刺激しあう場面は少ない。また印刷体の雑誌そのものが、外部からの入手に困難を伴う。こうして相互批判は、心の諸問題については殊に不活発となってきた。学術雑誌への掲載が研究の成就だとの錯覚さえ、しばしば見受けられるに至っている。

 心の研究は、他の分野もそうである以上に、方法論が確定していない。私たちは、学術的と認めうる限りにおいて、研究法の多様性をことさらに制限せず、この諸問題の考究を学際的かつ国際的に進めたいと願っている。問題の側が、人間の作った専門分野や学閥に合わせてくれるはずはない。心をめぐる諸問題は、あらゆる道筋からの探究を待ち受けているのである。

 この目的のためには、一部の人びとに論文の審査と掲載の決定権を委ねていてはいけない。歴史を振り返れば、多くの優れた独創的な研究が、査読によって公表を阻まれてきたことが知られる。反対に、形式だけ整って中身の薄い膨大な数の論文が、重要な研究業績に数えられてきた。若い研究者が、査読を意識するあまり真の問題意識を眠らせて業績を重ね、やがて問題そのものを忘れ、功成り名を遂げては、次の世代を無理解な審査で縛る循環が繰り返されてきた。

 本会は、発表への敷き居を出来るかぎり低くしたうえで、研究者どうしの相互評価に、業績の意義と価値の見極めを託そうとしている。機関誌への論文掲載は、評価の終わりではなく、始まりに過ぎない。これは、インターネットによって初めて可能となった方式だが、これからの業績評価のあり方に指針を与えるものともなろう。

 本会は、上記の考え方にもとづき、心の諸問題についての、公開性と相互受容と相互批判の保たれる研究発表の場を設け、運営することを目指すものである。巧みに工夫され弱点を見せない研究よりも、自らの問題意識とまごころとを裏切らない、真に独創的な研究の発表を待ち望む。またこれをめぐる、厳しくかつ前向きな討論を切望する。

  平成14年7月15日

 

心の諸問題考究会設立同人

吉田夏彦(哲学)
小島瓔禮(比較民俗学)
足立自朗(教育心理学)
須賀哲夫(認知科学)
酒木保(臨床心理学)
平岡昇修(インド哲学)
麻生武(発達心理学)
入江良平(ユング心理学)
安藤治(トランスパーソナル精神医学)
茂木健一郎(認知神経科学)
實川幹朗(世界学)